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zoom RSS 呑み屋で出会った個性的な人々

<<   作成日時 : 2017/05/19 18:38  

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呑み屋で良く一緒になる男で、個性の強い男がいた。彼は、一言で言えば「善人」なのだと思う。本人は、酔うと口癖のように「俺は血の涙を流すような苦労をして来た」と言っていたが、聞けば聞くほど、ある程度の年齢で、ある程度の社会経験があれば、おそらくは誰もが味わった事のある「苦労」ではないかと思った。

仕事が毎日楽しくて楽しくて仕方ないという人の方が、まれな気がする。生活の糧を得るために、働いている人間の方が大多数のような気がしている。自分の夢を実現するためだったり、家族のためだったり、嫌な事があっても、もう辞めたいと思うような時があっても、踏みとどまっている人間は少なくないと思う。
誰もが納得するような理由があって、その環境から飛び立つのと、目先の辛さに負けて逃げるのとは、別物だと思う。そして、飛び立つ勇気が無かったばかりに、結果的にその場に居続けた人間も少なくない筈だ。そういう人を侮辱するつもりは毛頭無い。それはそれで、その人が選んだ生き方なのだから。

繰り返しになるが、前述の男が言う苦労は、ある程度の年齢でまともに働いて来た人間であれば、「それはあなただけではないですよ。私ごときの人間でも、あなた流の言い方をすれば、あなたの何倍もの血の涙を流しているのですから。」と言いたくなるのだ。それを口に出すのも大人げないと思うから、敢えて黙っているのだが。(笑)

最初の内、彼は人の名前を覚えるのが苦手なのかと思った。その内に、女性の名前と、自分が気に入った男性の名前は、ちゃんと覚えている事に気が付いた。まぁ、名前を覚えるのが苦手ならそれでも構わないと思うが、自分と10歳も年が違わないお客に向かって「お父さん」と呼ぶ。相手が不快そうにして、ママさんが何回か名前を教えても、「お父さん」と呼ぶ。それどころか、自分より年下と明らかに分っているお客にも「先輩」と呼びかける。自分は、それが尊敬の念を表してると思っているようだ。はたから見ていると、わざとらしく媚を売っているようにしか見えないのだが。
血の涙の流し所が、どこか違うような気がしてならなかった。
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その女性は、饒舌だった。呑み屋で一緒になると、そばにいる人には誰にでも気さくに話しかけていた。自分は、心に思った事を正直に口に出してしまうから、誤解される事も多いと言っていた。悪気はないのだ、素直なのだと。でも、そのせいで苛められる事もあるとも。いつも寡黙な男性と来ていた。夫婦だと言った。

次に会った時、その女性はたまたま一緒になった男性客に、話しかけていた。
「お客さん、元気そうよね?私なんか病気があって色々大変なの。健康な人は、良いわよねぇ。」 そう言われている客は、確か数年前に癌の手術をしたという人だった。
「ママさんなんか幸せよねぇ。こんな店を出して、何の苦労も無いんでしょ?」
ママは、黙って笑っていた。ママには離婚歴があり、確か20年以上も慢性疾患を患っている筈だった。

3回目に会った時、その女性夫婦と店のママしかいなかった。女性は泣いていた。夫は、気まずそうな顔をしていた。ママは、場の空気を換えるように、こちらに声をかけて来た。

ほどなくして夫婦が帰ったので、なんかあったのかと尋ねてみた。ママは、一瞬戸惑ったような顔をしたが、話してくれた。
「悪い人じゃないんだけどね。彼女、初対面の人にでも平気で『初婚?再婚?』とか聞いちゃうし、大病をした方にでも、いきなり『病気の苦労とかわからないでしょ?』なんて言っちゃうのね。それで、無神経だと気分を悪くして、彼女と一緒になるのを嫌がって、帰っちゃう人もいるのよ。だから、店としても困るしね。・・・いつも自分は素直なんだ正直なんだと言ってるから、私も正直に言うねって前置きして、忠告したの。ある程度人間関係が出来てからならともかく、いきなり心の中まで踏み込んでほしくない事って、誰にでもあると思うのよ。それに、見た目だけでは健康かどうか、その人がどんな苦労をして来たのか、わからない事もあるでしょ?あなたも、子供じゃないんだから、もう少し相手に気配りとか思いやりとか、気遣いしても良いんじゃないかしら?って。」

彼女は、心の病を抱えているのかもしれないとママは言った。「ああいう旦那さんがいつもそばにいてくれて、彼女はまだ幸せよ。それがわかっているのかどうか。・・・無神経に思える人ほど、自分は傷つくのが嫌な人だったりするから、難しいわよね。うちの店にはもう来ないかも・・・ね。」と言って、寂しそうに微笑んだ。
ママの言葉通り、それきり彼女の姿をその店で見る事は無かった。

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